こんばんは、氷太です。
アレルギー持ちの方、外食される際に相当な神経を使っているかと思います。
「もしかして何かの手違いでアレルギー成分が入ってるかもしれない・・・。」
心中お察し致します。
俺は幸いアレルギーは持っておりません。
食品が多少腐っていても、大丈夫。美味しく頂けます。
なのでその辛さや苦悩は決して計り知れませんが、飲食業者として出来るだけの事はさせて頂きたいなと考えております。
ただどうしても許せない事があります。
只の好き嫌いでしかない物を『アレルギー』と称するモンスター共の存在です。
実際に遭遇したアレルギーモンスター
予約の段階
ある日の午前中、男性から電話での予約を承りました。
ご夫婦とお子さん、計3名でのご利用を希望との事。
声だけのやりとりでしたが、非常に穏やかな紳士的な方でした。
「ずっと前から家族で利用させて頂くのが夢だったんです。」
その一言が胸に染み込みました。
既に頂いている予約数もさほどでもないですし、断る理由も勿論ありませんので「こちらこそ是非宜しくお願いします!」と返事をし通話が終わりました。
問題はその日の夕方。
今度は奥様からの電話でした。
どうやら子供がアレルギーがあるようで、連絡をしてくれたようです。
氷太「どういったアレルギーをお持ちなのでしょうか?」
奥様「ウチの○○君はね~、魚アレルギーなのぅ。」
魚アレルギー・・・と。
奥様「あとは野菜もアレルギー持ってるのよね。」
野菜アレルギー・・・と。
奥様「あと山菜もアレルギーかな。」
山菜アレルギー・・・・と。
ちょっと待て。
いくらなんでも定義が広すぎやしないだろうか。
氷太「魚、野菜、山菜アレルギーとの事ですが具体的にどういった食材のアレルギーをお持ちなのでしょうか?」
奥様「だから魚・野菜・山菜よ。」
氷太「それぞれありますよね?カツオだったり山芋だったりウドだったりとか・・・。」
奥様「だから魚・野菜・山菜全部です。」
アレルギーというのは各食品に含まれている特定の成分に対して過剰反応を示す事を指すのではないのでしょうか?
魚アレルギー・野菜アレルギー・山菜アレルギーというのはザックリとし過ぎでは・・・。
とはいえお客さんがそう言うなら仕方がない。
これ以上ツッコム必要もない。
物凄い確率かもしれないが、有り得ないとも言い切る事もできない。
氷太「かしこまりました、では何か別の食材にて対応させて頂きます。」
奥様「お肉がいいわ。」
オイおばはん、何言ってんの?
通常のコース料理をアレルギーが理由で食べれない物があるから、対応できるかどうか今こうやって相談してるんだろ?
「お肉がいいわ」って何だよ?
バイキングじゃないんだよ。
何で貴様の息子の好きな物を利益度外視して用意せなならんのだ。
とフツフツと怒りが沸いたが、ここはスルーして
氷太「ではどうぞ宜しくお願い致します。」
と言って電話を切ろうとした瞬間。
奥様「ちょっと待って!もう1つお願いがあるの。」
長~い話を要約すると、息子さんのアレルギーは重度で場合によっては命に係わる。
故に、魚・野菜・山菜を調理した器具は徹底的に消毒が必要との事だった。
当然と言えば当然の処置なのですが、奥様のあまりの強い要望に正直怖さを感じてしまいました。
・・・これは相当な重度のアレルギーなんだと。
本当に、命に係わるアレルギーなんだと。
氷太「・・・一旦こちらで検討させて頂いていいですか?」
とだけ言い、電話を保留に。
責任者と料理長に確認を取った所『そこまで重度のアレルギーは難しい』という返事でした。
所詮は田舎の飲食店。
最新の機種もない、アレルギーに対する対応策をセミナーで学んでいる訳でもない。
命を預かれる程の努力を重ねてはいない――。
ただ旦那さんはこう言っていました。
「ずっと前から家族で利用させて頂くのが夢だったんです。」と。
何とか応えてあげたい、きっと他の飲食店で断られている事だって多いハズ。
その夢だけは傷つけたくない・・・。
「このお客さんの仲居はオレがやります。どうかお願いします!」
と頼み込み、OKを貰いました。
事務所まで走り、「大丈夫です!お任せください!」と返答をした時の奥様の嬉しそうな声を聞いて、この仕事をしていて本当に良かった・・・。
こういう所で頑張れる自分が誇らしくなりました。
そうこの時までは・・・・。
疑問を抱く事すらありませんでした。
そこまで重度のアレルギーなら、そもそも旦那さんが電話をかけてきた段階でその旨をこちらに伝えているハズだと。
いざ当日・・・・。
アレルギー対応の息子さんの料理に関する知識を頭に叩き込まなければなりません。
そして万が一の事態を避ける為に、旦那様・奥様の2人にも確認して貰う為に専用のお品書きを作成しました。
そしていざ、お食事の開始です。
配膳した料理を説明していき、息子さん専用の料理も説明をしていかなければなりません。
そして息子さんのコース料理を持っていく場合には毎回手を洗わなければなりません。
旦那様・奥様の器に、知らず知らずに食材が接触している可能性があるので一緒に持っていく事もできません。
文章で書くとただこれだけの事ですが、他のお客さんも担当しなければならない中、かなりの負担が伸し掛かります。
そして食事中盤、お造りをお持ちした時の事です。
部屋に入ると息子さんが、付だしとして出していた奥様用の『サーモンの燻製』を食べているではないですか。
心臓が飛び跳ねる。
さっき説明したハズなのに・・・!!
氷太「あの!そちらはサーモンです!すぐに吐き出してください!」
お客さんに向けて放つ勢いではなかったでしょう。
でも命がかかっている!!
命を預かっている!!
ところがまさかの一言が待っていました。
奥様「このサーモンは美味しいから○○君食べれるんだって」
・・・・は?
・・・・何言ってんだコイツ。
命に係わるアレルギーなんだろ?
美味しいとか不味いとかそんな次元の話じゃないだろ・・・。
そして旦那さんが続ける。
旦那「吐き出してくださいって何かあったんですか?」
・・・・は?
・・・・何言ってんだコイツも。
息子の命に係わるアレルギーすら知らねーのかよ・・・。
奥様「苦手なもの食べれて良かったね~○○君」
息子「すごくおいしい~!!」
この時、オレはサービス業に従事している人間とは思えない表情をしていたんだと思います。
満面の笑みで美味しいという息子に罪はない。
だけどオレはどんな顔をしていたんでしょうか。
息子が泣き始めてしまいました。
それをぼんやり見ながら、オレは何でこの仕事をしてるんだろうと考えてしまいました。
旦那「ど・・・どうしたんですか。」
氷太「自分は命に関わるアレルギーと聞いております」
旦那「アレルギーなんかないですよ、単なる好き嫌いです。」
氷太「・・・。」
男「何なら普通のお料理持ってきて頂いても・・・」
女「ダメよ、嫌いなものばっかりで○○君食べれないかもしれないでしょう?」
男「お前・・・今店の人がどんな気持ちで居るか分かるのか!何でそんな事言ったんだ!?」
女「だって好き嫌いなんて言ったら、絶対に準備なんてしてくれないじゃない!!」
夫婦でケンカが幕を上げる。
大声で泣く息子。
今から普通の料理持ってきてくれって何だよ・・・。
準備してくれないって何だよ・・・。
何の為に打ち合わせと準備を重ねてきたと思ってんだよ。
俺が今どんだけ神経使ってると思ってんだよ。
・・・もう好きにしてくれ。
氷太「・・・命に関わるアレルギーはないんですよね?」
男「・・・ハイ。」
氷太「消毒が必要というのも、単に好き嫌いによるものなんですよね?」
男「・・・ハイ・・・。」
オレは何も言わずに部屋を出ました。
心がポッキリと折れていました。
仲居が準備する所に戻り、他のお客さんの料理の準備をしていると上司がやってきて何があったのかを聞かれ、「あのお客さんの命に関わるというアレルギーの話は嘘でした。」と伝えました。
その後少ししてから
「今日はもういいから・・・。」
と早退を促され、その言葉に甘えました。
板場を通り、料理人の方々に
「自分の確認不足でした、申し訳ありませんでした。」
と伝えると
「何も気にする必要はない、泣く必要もないよ。」
と言われました。
ああ・・・自分は泣いていたんだ。
そうぼんやり考えながら家に帰りました。
何もやる気が起きず、布団の中であの家族の事を考えていました。
アレルギーが本当だったら良かったのに――。
ずっとそんな事を考えながら、泣きました。
まとめ
本当にサービス業に従事する者として失格だったかと思います。
というか人として最低でしたね。
最悪の出来事を望むなんてね・・・。
我が事ながらこれはヒデー。
ただこれだけは覚えておいて欲しい。
アレルギーの方がアレルギーを主張するのは何の問題もありません。
応えられるかは分かりませんが、何とか応えられないものかと考えるのがサービス業だと思いますので。
ただ単なる好き嫌いをアレルギーに置き換えるモンスターは別です。
はっきり言って、存在しているだけで困ります。
それは人の善意を踏みにじる行為です。
本当のアレルギーを持っている人たちへの冒涜です。
どうぞ今すぐ朽ち果てて下さい。
今振り返っても、あの家族には憎悪以外の何の感情も抱けません。
この気持ちを断ち切るために言わせて欲しい。
アレルギーを悪用するモンスター共よ、今すぐ自害しろ。